「雪村、こいつは相手にしなくていいから。かして」


「え……?」


やれやれといった表情で三沢くんを見たあと、怜くんは問題集の山を下から持ち上げるようにして軽々と私の腕から奪った。


「教室に運べばいいんだろ?」


「え、あ……うん」


そうなんだけど……。


テンパっている私をよそに、スタスタと何事もなかったかのように歩き出す。


その背中をポカンと見つめることしかできない。


「あいつにも、あんなに紳士的なところがあったとはねー。女子にはいっつも冷たいのに」


「…………」


確かに、三沢くんの言う通り。


いつもクールで不機嫌な怜くんに、女子を気遣う優しい一面があるなんて思ってもみなかった。


イメージとちがう行動を取られると、なんだか拍子抜けしてしまう。


「まぁでも、あいつは見かけはあんなんだけど、悪い奴じゃないからさ!よかったら、これからも仲良くしてやって?やべ、急がねーと!呼ばれてるから、行くわ!じゃあな」


三沢くんは無邪気な笑顔を残して、慌ただしく走り去った。