「咲花(さな)ちゃん、お願い!今日の掃除当番代わってくれない?」
前の席に座る前野(まえの)さんは、振り返るや否や両手を顔の前で合わせた。
「今日はどうしても外せない用事があって、すぐに帰らなきゃいけないの」
申し訳なさそうに眉を下げる彼女は、クラスでも人気がある可愛くてオシャレな女の子。
「ダメ、かなぁ?」
潤んだ瞳でわざとらしい上目遣い。
一見ぶりっ子にも見えるけど、前野さんがやると嫌味じゃなくてサマになってる。
ふわっと甘い匂いまでして女子力高め。
こうやってお願いすれば、周りがなんでも言うことを聞いてくれると思ってる甘え上手。
「こんなこと頼めるの、咲花ちゃんくらいしかいなくて」
「いい、よ」
「ほんと?やったー!ありがとう」
前野さんは可愛く笑うと、早速帰り支度に取り掛かった。
ゆるく巻かれた茶色い髪を耳にかけながら、机の中の物をカバンに詰め込んでいく。
「屋上掃除担当だから、よろしくね。バイバーイ」