今日の補講は受けるのやめよう。
というか、受けられるわけなかった、あの先生の授業は。

そう思いながら靴を履き替えていると、3年生の下駄箱の方から女の子の声が聞こえてきた。

あぁ、桃華先輩がどこかに連れて行かれるんだ。

何人かいたはずだ。私が今さら助けに行っても敵うわけない。そう言い聞かせて校門に向かうが、どうしても校門を通れなかった。

私の勝手な被害妄想が産んだことだ。
せめて、桃華先輩は…。

そして私は走り出していた。



どこ行ったの??

息を切らしながら考えられる場所を当たってみるが、いない。
校舎裏、体育館裏、器具庫内、あとは…

部室棟!

あれから随分時間が経っていた、急がなければ間に合わない。バッグを昇降口に投げ捨て、全速力で走る。

見つけた。

尋問を受けていただけなのか、桃華先輩はまだ無傷だ。だが一安心する暇はなかった。1人の女の先輩が水の入ったバケツを持っていたのだ。

咄嗟に桃華先輩の前に飛び出ると、思いっきり冷たい水をかぶる。



「え?」



そう小さな声を出した桃華先輩。

良かった、桃華先輩少ししか濡れてなくて。

ビショビショになった私を見た先輩方は悲鳴をあげそうになっていた。



「あ、あの。こういうのはやめてあげてくれませんか?桃華先輩はただ一ノ瀬先輩が好きなだけで、それで、振られたのは私なんです。だからっ…」



後ろを振り向くと、

ごめんなさい

と繰り返すばかりの桃華先輩。



「桃華先輩、それでも1発いいですか」



そう言って、桃華先輩の頬を叩こうとすると、



「環奈、やめなさい」



声のしたそこには、私のバッグを持った美月ちゃんがいた。

そして、やっと我にかえる。
一ノ瀬先輩に分かってもらえてなかった悔しさをなぜか桃華先輩に当てようとしていた自分に気付いたから。



「すみません、でも私、あなたのこと好きになれそうにないです」



そう言って美月ちゃんに家まで送ってもらったんだ。