太一side





一ノ瀬「……人の努力を才能の一言で片付けんのは、自分が同じだけ努力した後に言うんだな。」




一ノ瀬という奴に少し近づいたため、

その言葉から鮮明に聞こえるようになった。

そして、その聞こえた言葉に

何か敗北感のようなものを感じた。


環奈が怯える奴だから、

どんな最低野郎かと思っていた。

だが実際どうだ?

ただの良い奴にしか見えないのだ。


また、気を失いそうな環奈の

近くにつきながらも会話の続きを聞いてしまう。




「ガキのくせに偉そうなこと言うな!」


「じゃあお前らは、そのガキより1つ年下の環奈にボロ負けじゃねーか。才能でも努力でも。」


「はあ?!お前!高槻家の何なんだよ?」


「……環奈のそばいたことがあるから、分かるんだよ」




そうめんどくさそうに言うと、
向きを変えて環奈の方へ、つまり俺らの方に歩いて来る。

そして、俺と隼人を見ると、

一瞬、目を見開いてから




「気、失ったのか…」




そう言って、環奈の腕を自分の首に回し始めた。




隼人「え?あ、はい…」


「悪いんだけど、環奈運ぶ役は俺が貰うわ」




そう言いながらも、

すでに意識のない環奈を抱き上げ歩き出す。

気を失った環奈が心配だったが、

1つ、聞いておきたいことがあった。

そして、口を開いた。




「百合ヶ丘の奴だよな?

環奈とはどういう関係?」


「…付き合ってた、昔」




そう、少し考えてから答えた一ノ瀬という奴と目が合った後、

俺の身体が一気に重くなった気がしたんだ。

聞かなければ良かったという後悔から。




太一side.end