決勝が始まるのは20分後。
すでに2試合を終えた選手達に
もう1試合なんて拷問なんじゃないかと思っていると、
「高槻、環奈さん?」
そう後ろから、
聞き覚えのある声で呼ばれ振り返る。
「…き、昨日の。」
ジャージではなく私服で、
隣には見知らぬ男の人がいたため、
少し気付くのに時間がかかった。
でも間違えない…
昨日の、
あのセッターさんだった。
そして隣の男の人が口を開く。
「うちの息子が酷いことを言ってしまったようで、本当に申し訳ない。
私は高槻さんを恨んだりしてないし、
むしろ尊敬しています。
こんなバカ息子の親の私ですが、
一緒に良いバレー誌を作れたらと思っています。」
「は、はい…」
セッターさんの、お父さん…
優しそうな口調でそう私に謝ると、
じゃあと言って去っていく。
あの人が、バレー誌の写真を撮っていたんだ…。
ほとんど誰もいない通りであるここ。
セッターさんと目が合う。
「何をしたかまでは流石に言えなかった。
なんとなく、
あなたが傷つく気がして…
本当に、ごめん。」
真剣な口調で言われ、
本当は良い人なんだと改めて感じる。
頭を下げられたため、
慌てて彼の肩を掴んで元に戻そうとしながら
「……か、顔あげて、下さ、い。
あの、本当に…もう許したから。
誰だって自分の大事な人が傷ついていたら、
おかしくなってしまう時があります、ね?」
そう言って再び目を合わせると
持っていたカバンからある写真を取り出す。

