私が何を言えばいいか迷っていると、
後ろから誰かに肩を掴まれ、
その誰かが、私よりも少し前に出る。
「どうも!今日はお願いします。」
太一君…。
見上げるといつも通り、
真剣な太一君の横顔がある。
とくんっ
そう胸が高鳴るのをはっきり自覚しながら、
なんでこんなにもいつも通りなんだ
と思い悔しくなる。
クシャッて笑ってるのが1番好きだと思ってたけど
こっちも好き。
「おぉー!瀬戸!負けねーからな!」
そう笑顔で言って
向こうのコートの方に戻っていくエースさんを見送ると、
「あ、ありがとう」
「いーえ。
で、俺のこと避けようとか思ってる?」
ギクッ
心の中でそんな音が聞こえたが、
薄笑いの太一君には内緒のまま、
「…そんなまさか」
そう、しばらくの沈黙の後こたえる。
間、開けすぎたかな。
そして太一君は
その私の返答にクスッと笑うと、
「だよな。
あんまフラフラすんなよ。」
そう言ってアップを始めた。
なんでも、お見通し、なんだね、
太一君には。

