スノーフレークス

「昨日の夜っていうか今日の未明というべきかしら、あの時はどうもありがとう。お地蔵様に言われたとおり髪の毛、あげちゃったんだね」
「ええ。サッパリしたわよ。私、一度ショートカットにしてみたかったのよね。どう似合う?」
 彼女は淡々とした調子で言う。
「うん。とっても似合う。前より明るい感じなったよ」
 私の感想を聞いて氷室さんはうれしそうに微笑む。スマートで顔の小さい氷室さんにはボーイッシュなヘアスタイルもよく似合う。
「髪の毛もきれいに切り揃えられているし」
 仏様はヘアカットもできるのだろうか。
「ああ、これね。今日の朝、不揃いの部分をお母さんが切り揃えてくれたのよ。あの人、結構器用なのよ」
「私のために髪の毛がなくなっちゃって申し訳ないわ」
「いいわよ。髪ならまたのびるもの」
「髪の毛が無いとパワーが落ちるとかそういうんじゃないでしょうね?」
「何それ、そんなことないわよ。聖書に出てくる怪力男じゃあるまいし」
 旧約聖書に登場する怪力のサムソンは髪を剃られるとそのパワーを失うのだ。
「そうか。それならいいけど」

「そんなに気にしているなら私たちの仕事を手伝ってもらおうかな。送りの時に」
 氷室さんが提案してくる。
「えーっ、私が?」
 寒い雪の夜に死者の霊魂の相手をしなきゃならないなんて考えただけでも恐ろしい。
「冗談よ。家の仕事が忙しいあなたにあんなきついアルバイトは頼めないわ。なにせ深夜のハードワークだもの」
 氷室さんがクスクス笑う。まあ、送りの助手を頼まれたところで私では役に立てないけど。
「でも、観音様から何か仕事を頼まれることになっちゃったわ」
「ああ、そのことならあんまり心配しなくていいわよ。あなたが真夜中の特別任務を請け負うのはもっとずっと先のことだと思うわ。だってあなたの特殊なスキルはまだそんなに発達していないもの。観音様だってあなたには多くを期待していないから、仮に仕事を依頼するとしても大した内容じゃないでしょ」
「おばあちゃんみたいに巫女になれとか言われたら困るな。お化けと話をする仕事に就くなんてご免こうむるわ」
「大丈夫よ。向こうはあなたの進路選択にまで口を挟んではこないわよ。時々軽作業を手伝うように言われるだけよ」