佐伯さんなんかは教員志望のお姉さんが横浜国立大学に通っているから、休みの時にちょくちょく横浜に遊びにいっているらしい。彼女は私に横浜みなとみらいに行った時の話をしてくれた。ランドマークタワーの下でやっていた大道芸が面白かったと彼女は語る。
 彼女たちが私に関心を持ってくれている一方で、私も彼女たちを観察していた。この町の人たちが使う言葉には関西弁に似たアクセントなんだけど、でもちょっと違う独特の訛りがある。今まで聞いたことのないイントネーションだ。私も古城高校を卒業する頃には土地の訛りをマスターしているのだろうか。
「日向さんて珍しい名字だよね」
 高瀬さんが私の上の名前についてコメントする。彼女は眼鏡をかけた、見るからに秀才っぽい子だ。
「うん。実は父さんは沖縄出身なの」
 私がそう言うと一同から感嘆の声が漏れる。
「いいわね。横浜育ちで沖縄にも親戚がいるなんて。いつでも沖縄に遊びにいけるじゃない」
 谷口さんが言う。寒い土地に住む人間は南の島に対する憧れが強いのかもしれない。
「うん、まあね。浦添におばあちゃんがいるからね」
「いいなあ。うちなんか一族郎党富山もんだよ。田舎者ばっかり」
 藤井さんが言う。
「でも、高岡も良さそうな所だと思うよ」
 私がフォローすると皆は口々にそれを否定する。後で知ることなのだが、この町の人たちは自分の住んでいる町に誇りを持っている。彼女たちだって、内心ではこの歴史ある古い片田舎の町を愛しているはずだ。

「ところで、今朝廊下でカーディガンに帽子、それからサングラスまで身につけている女の子を見かけたのよ」 
 私は話を変えた。朝、父さんと廊下を歩いている時に暑苦しいかっこうをした女の子を見かけたことを伝えた。チラッと見かけただけの姿が頭の片隅に残っていた。
「帽子かぁ。うちらはあんまりかぶらないよね。でも、うちの学校だったらかぶっている子もいそうだよね。カーディガンは冷房が強い時のために持ってくる子がいるよ」
 高瀬さんが言う。普通、実業高校と違って進学校の校則は緩く、勉強さえちゃんとしていれば生徒たちは結構自由なかっこうができる。古城高校の生徒の中にも髪を茶色く染めている子を何人か見かけた。サングラスをかけて登校しても先生に注意されることはないのかもしれない。