「あの世ともいうわ。私たちは伝説の中で『雪女』と呼ばれているけど、正確には冥界とこの世の橋渡しをしている使者のような存在なの。といっても私たちは全ての死者をあの世に誘うわけではないの。この不思議な力が使えるのは雪の中だけよ。しかも、呼び出すのは病気や怪我で苦しんで死にかかっている人だけ。昔話のイメージと違って私たちはむやみな殺生はしないわ」
「じゃあ、あなたたちは病人の安楽死を手助けしているというの?」
私はたずねる。
「いいえ。私たちは決して人の死を促しているわけではないわ。あくまでも、死が運命付けられた人を最期の一瞬だけでも楽にしてあげるだけなのよ。苦しみの中で息絶えるのではなくて、穏やかな気持ちで冥界の門をくぐってもらうようにしているのよ。私たちは呼び出した魂を雪舟という乗り物に乗せて冥界の入り口まで送るの」
昨夜おばあさんが乗り込んだ、あの舟のように先が尖った乗り物は橇だったのだ。
「そうだったの。西野のおばあさんがあなたたちに殺されたわけじゃないと知って安心したわ。むしろ、穏やかな気持ちで天国に行ったんだと聞いて良かった。おばあさん、気さくで優しい人だったから」
私の目がちょっと潤んできた。
「私、あの光景を見て、それから澁澤君の言葉を聞いて気持ちが揺らいだんだけど、心のどこかで氷室さんのことを疑い切れなかったの。池で私を助けてくれたあなたがそんな残忍なことをするはずないって思ってた」
「そう。それはうれしいわね」
氷室さんはハシバミ色の優しい目で私を見る。いつもは能面のような彼女の顔に天使のような笑みが浮かぶ。男であれ女であれ、この笑顔に見惚れない人間がいたら知りたいものだ。どうしていつもこんなふうに笑ってくれないのだろうか。
「ちなみに、あの連れは私の母なのよ」
「えー! お母さん? あの人、どう見ても三十代前半にしか見えなかったわよ! 氷室さんのお姉さんかと思った」
氷室さんの言葉に私は驚く。氷室さんの母親が娘を迎えに学校へ来た時は車の中にいたからわからなかったけど、あんなに若くてきれいな人だったんだ。
「よく言われる。あの人はね、生粋の雪女だから年をとらないのよ。私は半人半妖、つまり人間と妖怪のハーフだから人間のように成長するけどね」
「半分妖怪ってことは寿命も普通の人間より長いの?」
「じゃあ、あなたたちは病人の安楽死を手助けしているというの?」
私はたずねる。
「いいえ。私たちは決して人の死を促しているわけではないわ。あくまでも、死が運命付けられた人を最期の一瞬だけでも楽にしてあげるだけなのよ。苦しみの中で息絶えるのではなくて、穏やかな気持ちで冥界の門をくぐってもらうようにしているのよ。私たちは呼び出した魂を雪舟という乗り物に乗せて冥界の入り口まで送るの」
昨夜おばあさんが乗り込んだ、あの舟のように先が尖った乗り物は橇だったのだ。
「そうだったの。西野のおばあさんがあなたたちに殺されたわけじゃないと知って安心したわ。むしろ、穏やかな気持ちで天国に行ったんだと聞いて良かった。おばあさん、気さくで優しい人だったから」
私の目がちょっと潤んできた。
「私、あの光景を見て、それから澁澤君の言葉を聞いて気持ちが揺らいだんだけど、心のどこかで氷室さんのことを疑い切れなかったの。池で私を助けてくれたあなたがそんな残忍なことをするはずないって思ってた」
「そう。それはうれしいわね」
氷室さんはハシバミ色の優しい目で私を見る。いつもは能面のような彼女の顔に天使のような笑みが浮かぶ。男であれ女であれ、この笑顔に見惚れない人間がいたら知りたいものだ。どうしていつもこんなふうに笑ってくれないのだろうか。
「ちなみに、あの連れは私の母なのよ」
「えー! お母さん? あの人、どう見ても三十代前半にしか見えなかったわよ! 氷室さんのお姉さんかと思った」
氷室さんの言葉に私は驚く。氷室さんの母親が娘を迎えに学校へ来た時は車の中にいたからわからなかったけど、あんなに若くてきれいな人だったんだ。
「よく言われる。あの人はね、生粋の雪女だから年をとらないのよ。私は半人半妖、つまり人間と妖怪のハーフだから人間のように成長するけどね」
「半分妖怪ってことは寿命も普通の人間より長いの?」


