眠り姫の憂鬱。



「幸せそうでなにより」

「えへへ…、」


本当に、幸せ者なんだよ、私は。



帰り際、下駄箱で楓を見かけて駆け寄った。


「楓!」


話しかけた後でハッとする。

心臓がバクバクと音を立て始めた。


「何?」


思ったよりもいつも通りの反応で逆にこちらが緊張してしまう。

ごくんと唾を飲み込んだ。


「で、デートしよ!」

「またそれかよ」


楓は呆れ顔で言う。

ああ、このままじゃ一生デートできずに終わっちゃう。

きっと後悔する。


「楓、お願い。1回だけでいいから」


緊張で乾いた喉にひゅう、と空気が通った。


「お願い」


彼をじっと見つめる。

楓は真顔になって、私を貫くみたいに見つめ返してくる。


「いいよ」

「えっ、ほんと?」


身を乗り出して聞くと、楓は困り顔で笑って再度オーケーしてくれた。