眠り姫の憂鬱。



「真依〜、マラソン大会出ることにした〜」

「は?」


真依の元に戻りベンチに座りながら報告する。

真依は目を丸くし、お弁当をつついていた箸を止めた。


「どういう風の吹き回し?」

「いやー、サボりすぎかなって」


私の適当な返しを聞いた真依が怪訝そうにこちらを見てくる。

それをヘラヘラと笑って誤魔化した。


「大丈夫なの?」

「大丈夫って何が?」

「だって雅さ、マラソン大会なんかに参加したら体壊しちゃいそうじゃん」

「心配いらないよ」


真依は病気のことを知らないはずなのに、勘が鋭いのか、私が病弱そうに見えるのか、一瞬だけ心臓がドクンと鳴った。


「途中で適当に抜けるよ」

「結局抜けるんかい」

「真依も一緒にサボる?」

「遠慮しとく」


走るといってもさすがに完走はできないだろう。

コースには心臓破りの坂と呼ばれる坂があり、そこはとてもじゃないけど走れない。

誰にもバレないように、さっと抜けよう。