眠り姫の憂鬱。



でも、まずは私という存在を覚えてもらわないと。

彼は確実にモテるだろうし、数多く告白されてきただろうから、このままでは私もそのうちのひとりの女にしかならない。


「私、あなたと絶対付き合ってみせます!覚えておいてくださいね?」


私は小首を傾げてそう言った。

どうだ。覚えたか?

痛い女だって思われたっていい。

どこからそんな自信が湧くんだって思われてもいい。

彼の脳の片隅に私という存在を少しでも残せたら。


「失礼します!」

「えっ、おい!」


私は彼には応えず、保健室を足早に去った。

ほら、降られた身としては多少なりとも気まずいし。


彼は何組なんだろう。

ブレザーに付いた学年色の校章が赤だったから私と同い年のはず。


彼のことは本当に何も知らないのだけど、そんなに広くないこの学校で見つけ出すのはあまり難しくない。

だから全く気がかりじゃない。