「私が育てたわけじゃないけど、立派に育ってくれてありがとう。智之さんも、きっと喜んでるわ」


いつの間にいたのといった感じでお母さんはスルリと会話にのめり込んでくる。


「…そうだといいね」


お兄ちゃんはそう言って、少し寂しげに笑った。


大切なものを失うって、こういうことだったんだってもう今ならわかる。


昔お兄ちゃんに同情したりしてたけど、そんなのじゃない。


もっと深い苦しみで、周りが見えなくなって、ぬかるみから抜け出せない感覚。


私とお兄ちゃんはやっと、分かり合える仲になったんだなって実感した。



「そういえば、家族写真って撮ったことあります?」


ふと渓くんが口を開いた。


「そういえば、雄斗と撮ったことはなかったかしら」


「僕も記憶にないよ」


…ということで、この歳になって初の家族写真。


「もっとこう、近寄って。あ〜真琴いきすぎ。あっ、その辺!」


プロのカメラマンかよってツッコミたくなるくらい渓くんが張り切ってる。


…それにはちょっとわけがあって。


ほんの数時間前のこと。


「俺、昔真琴のお兄ちゃんに向かってめっちゃ偉そうなことゆったやん?あの、花火の日。ずっとそれ後悔しててさ…。真琴と付き合ってんのにお兄ちゃんといざこざあってって、よくない気するし…」


というわけで、どうにか溝を埋めようと頑張ってるみたい…。