午前0時、夜空の下で。 ―Short Story―

それでもクロスリードの態度が信じられずに掴んだ腕は、今の彼女にできる唯一の引き留め。

「……どうか」

まるで雪のように、溶けてしまいそうなほど小さな囁きが、空気を震わせる。

「どうかあなただけは、幸せになってください」

握りしめるカザリナの指先を優しく包んで、振り返ったクロスリードは目の前の小さな額にそっと唇を落とす。

馴染んだ温もりが宥めるように押し付けられ、カザリナはもはや引き留められないことを悟った。

――いつまでも、お元気で。

優しすぎる言葉だけを残して、穏やかに慕ったその姿は、消えた。