午前0時、夜空の下で。 ―Short Story―

なんでもないことのように、クロスリードは言った。

銀の髪に月明かりが溶け込んで、幻想的な輝きを増す。

翼を失った白きひとは、凪いだ海のような表情でカザリナを突き落とした。

冷たい指先がカザリナの頬を掠って、遠ざかってゆく。

「どうして……?」

問い掛けるカザリナから、クロスリードは目を逸らして立ち上がる。

「クロスリード様!」

部屋から出ていこうとする男の腕を、カザリナはとっさに掴んだ。

抱きついて止めることは、貴族として敬われて育ってきた彼女の矜持が許さない。

アクセス家の長姫として生まれたカザリナは、婚姻後は夫が外で愛人をつくることもあるのだから、去りゆく背に縋りつくような、無様な真似だけはしないように、と言い聞かせられて育ってきたのだ。