かすかな物音に、カザリナは勢いよく振り返った。
主人の勢いに、部屋に入ったメイジーがびくりと肩を震わせる。
「手紙でしょう? 私が見るから仕事に戻っていいわよ」
いそいそと手紙の束に手を伸ばす主人の姿に、メイジーはにこりと笑って手にしていたものを差し出した。
別荘に移ってもなお大量に届くのは、貴族たちからのご機嫌伺いの手紙だ。
黎におけるアクセス家の力の大きさは、手紙の量に比例する。
だがカザリナが求めていたのは、そんなものではなかった。
ここしばらく、途切れがちだったクロスリードからの手紙。
ぱらぱらと差出人だけ確認したカザリナは、がっくりと肩を落とした。



