取り乱して大声を上げてしまったこと恥じ、ジュリアは優雅に微笑した。

ノースヴァンの名に、灰狼は目を見開く。

誉れの雫と名高いノースヴァンの血を欲する家は多いが、獣族から見ても魅力的なのだろうか。

しかし灰狼はジュリアに近づこうとはせず、静かに背を向けた。

「礼などいらぬ。この回廊を進めば、広間に繋がっているはずだ。
早く広間に戻られた方がいいだろう。ノースヴァンの血をひくなら尚更だ」

「っ、待って!」

ジュリアの声に灰狼は振り返り、ふと目を細めた。

魔界において、獣族の地位は曖昧である。

強力な魔力を有する者の中には、人型でありながら獣の姿に変わることができる者もいると言われているからだ。

しかし、黎国屈指の貴族たちですら獣の姿をとることができないため、ほとんどの魔族はそれを根拠のない言い伝えと考え、獣族と一線を画している。

だからこそ灰狼はジュリアに無礼を詫びたが、彼女の態度は今まで目にしてきた貴族たちとはあまりに異なっていた。

青灰色の瞳に、興味深げな色が浮かぶ。