「御馳走様」

祖母にそれだけ言うと、私は自室に戻る。
そして、鞄に荷物を入れる作業を再開した。

と言っても大体が終わっているけれど。

あとは……財布と切符くらい?
机の上に置いておいたそれらを鞄に詰め込む。

まあ、こんなものだろう。
どうせやることもないもないし。

することと言ったら、
親戚の躾のなってない子供の相手か、
セクハラ紛いのことをする親戚の御酌、
池の鯉の観察くらいだ。

つまるところ、暇だ。

明日、本家に行って、三十一日まで好きなことをしていいと言われているが、好きなことなんてできない。
本家の屋敷から出られないのだから。

出られて庭まで。
それ以上は出られない。
私はあの塀のたった数センチ向こう側にさえ行けないのだ。

家に帰るときくらいしか出られない。
窮屈で暇だが、疲れる。

躾のなってない子供はあちこち走り回るから運動神経0には大変だし、
親戚の御酌はセクハラを防ぎつつやるので疲れる。
鯉の観察は池の水を綺麗にしたりもさせられるので、毎回寒さで死ぬかと思う。

そこまで考えた私は、気に入ってる本を持っていくことにした。
一日の最後の癒しくらいにはなってくれるだろう。

本を二三冊、鞄に詰めた私は、部屋のテレビをつけた。
美人のアナウンサーが地元のニュースを笑顔で伝えてくれる。

『美術館で展覧会が――――』
「ああ、今日だっけ」

アナウンサーが言っている展覧会とは近くの市でやっている展覧会だろう。

高名な画家の展覧会だったので、見に行きたかったのだが、友達とは予定が合わないし、祖母を遠くに連れ回すわけにはいかない。
おまけにこの吹雪だ。行ける訳がなかったのだ、最初から。

私はチャンネルを変えて、クイズ番組をBGMに本棚に入っていた本を読み始めた。

なんのことはないメジャーな詩人の詩集。
私は文学少女ではないから、詩の良さなんてわからないけど、なんとなく切なくなるから好きだ。

『こころは二人の旅びと
されど道づれのたえて物言ふことなければ
わがこころはいつもかくさびしきなり。』