「いただきます」
 
 うちほどではないにしても寒い台所で一人飯(食料は全て残飯)とか非リア一直線。

 笑えないのだけれど、こう毎年毎年やられると悲しさとか悔しさとか呆れを通り越して、こんなことしか思いつけない、あいつらの頭を憐れむしかなくなってくる。

 嗚呼、可哀想に。折角人並みの機能は持っているのに使う人間の性能が足りなさ過ぎて本来の力を発揮できていない脳味噌はとてもとても可哀想。

 一人、性格の悪いことを考えているとポケットの中で携帯が鳴った。この着メロは島原か。

 箸を一旦置いて、携帯を取り出す。正直言って、我が家はあまりお金ないからWi-Fi環境下じゃないところで電話とかメールとかしたくないのだが。
 

「もしもし?」

『あ、清水?』

「はいはい、清水ですよ、清水月子ですよ。んで、用は?」

『本家嫌いな理由、まだ聞いてなかったなあって今思い出したの』

「島原、お前の行動力は賞賛に値するものとは思うけど、賞賛したいかと言われればしたくないね」

『そう。で、どうして?』
 

 話題を逸らさせてはくれない、か。心の中で舌打ちする。
 
「……島原、自分に害をなす人間を人はどうしたって好きにはなれないんだよ。私だってそうだ」


『ふうん。じゃあ、本家の人が優しくしてくれたら、優しくするの?』

「……あー、しない、だろうね。ならさっきの理論は当てはまらないわけか」

 
 叔母たちが私に心の底から優しくしてくれているのを想像する。

 うん、無理だ。気持ち悪いったらありゃしない。これなら虫の交尾の方がまだマシだ。
 

「んじゃ、生理的に無理なんだ。お前だって餡子、嫌いじゃん」

『清水は人と餡子を一緒にするの?』

「するわけじゃないけど、それに似たもの、もしくはそれの進化形だと思ってもらえれば」

『そう。それでいいんだ』

「それでいいんだよ。お前みたいに深層心理まで探って見つける真実もあれば、私みたいに自分でもよく分からないということを真実とする奴もいる。そんなもんだ」

『それが清水の考え? 参考になったよ、ありがとう』

「どういたしまして」

『ところで清水』

「何?」

『受験勉強は……』

「……この電話は現在使われておりません。ピーという発信音のあとにメッセージを残さないでさっさとお風呂入って体あっためて寝ましょう」


 そう言い残して、携帯の電源をぶちりと切った。

 言っておくが、私は受験に消極的な訳では無い。寧ろ、さっさと合格して、国立大学行って、働いて祖母孝行したい。

 しかし、今現在その思いとは裏腹にこんなところまで来てしまっているわけで。

勉強道具一式でも持ってこいよと言われそうだが、そんなもの持ってきたら最後、叔父叔母にからかわれて、従兄弟にガリ勉と囃し立てられ、甥に落書きされるに決まっている。

その程度がなんだと言われそうだから、もう一つ言っておく。己の努力を踏みにじられる身にもなってみろ。必死で勉強した数週間をたった数分の落書きで無かったことにされてしまう気持ちがわかるか? わからないなら、口出すな。

 私は箸を持ち直し食事を再開する。
嗚呼、残飯なんて大して美味しくもないものを何故、態々近畿に来てまで食わなければならんのだろう。