例えばの話



あの日私が、あんなことしなければ

あなたは初めから
私なんかに縛られなくてすんだのに


あなたの赴くまま
自由に走り続けることが出来たのに


ごめんね

それを知っていても
あなたを手放せない私でごめんね



防波堤の上


潮の香り

波の音


ほとんど沈んでしまった夕日


「先パイ、見て。
超キレイ」


夕日を指差しあなたを振り向く私と


「おい、危ないから降りろ」


私を見上げて注意をするあなた


「大丈夫ですよ
そんな運動神経悪くありません」


そう言いながら
道を歩くあなたを引き上げようと
腕をつかむ私と


「そういうことじゃねぇよ
心配なんだよ、頼むから――――」


そう言いながら
防波堤の上を歩く私を降ろそうと諭すあなた


原因は私が足を踏み外したから

決してあなたが腕を振り払おうとしたからじゃない

決してあなたが私の体をつかみ損ねたからじゃない



だけど、ごめんね


「もう、選手として走ることは
諦めた方がいいでしょう」



その言葉は、走ることが大好きなあなたには

きっと、私が思っているよりずっと


重たい言葉だったんだ