「帰ろ」
練習後
暗い空
まだ練習着のあんたの声はいつもより少し低い気がする
「え、何で…」
「何でって、別に普通に」
普通なんかじゃないよ
たまたま一緒になったときしか、帰ってなかったじゃんか
「あ、あたし
約束、あるから…
先、帰って」
嘘じゃない
颯センパイがテーピング教えてくれるって言ったし
嘘じゃない、けど
いつもだったら、待っててって、言う
でも、無理だよ
もう、“離れろ”なんてそんな言葉
聞きたくない
聞いてしまえば、きっと
昨日飲み込んだ全てのものが溢れて止まらない
「…嫌だ」
「え?」
暗くて見えにくいあんたの表情が
少し歪んだ気がした
「あ、いたいた
おーい、早く来いよ、か
「無理」
声は颯さん
行かなきゃ行けないのに
わかってるのに
捕まれたこの腕の方が振り払っちゃいけない気がする
引かれた腕に逆らわず
あたしたちは走り出した
