「え、羽美、そんなの気にしてたわけ?」



小さくうなずく


逆に、お姉ちゃんほど
トラウマなものはない


「で、でも
お姉ちゃんに彼氏ができたときっ!
すっごい悲しそうだった!」

「だって、ずっと一緒に走ってたんだぞ?
みんな同じように
何も進んでないと思うじゃん?

俺なんて、やっと普通に話せるようになった頃だったのに」

「…何それ」

「…知らねぇよ
つーか、綺麗だって言ったのはお前だろ!?」

「え?」

「覚えてねぇの?
羽美がはじめて見学来たとき
綺麗で感動したって…

まじかよ、覚えてねぇのかよ」


「いや…」


覚えてる

覚えてないのはあなたの方かと思ってた


だって、すぐ
お姉ちゃんと話始めたから…


「え?

じゃぁ、何で告白したとき
保留にしたの?」


「暗くなってきたから
とりあえず送る予定だったんだよ!
というか、羽美があんな危ないことしなきりゃ
帰りながらでも話す予定だったよ!

あのときの舞い上がり加減なめんなよ!!」


そっか、そうだったのか…
というか、今までの私の傷は、いったい…


「…言ってよ、わかんないよ」

「…そのあと、色々立て込んだだろ。
申し訳なくて、言えなかった」


そんな微妙なところで
変な気を回さないでよ

あの頃の私がどれだけ泣いたと思ってるの



「例えば」

「ん?」


「例えば私があのとき怪我しなくても
あなたは私を好きになってた?」


「だーかーらー



あの時にはもう、好きだったよ」













例えばの話



きっとあなたが走ってなくても


きっと私があなたを褒めなくても


私たちは出逢ったとき

恋に落ちたのだろう




もし、そうじゃなかったとしても



「颯さん」

「…何?」


今日、この時点で




綺麗に走るあなたが


優しく笑うあなたが


照れて少し怒るあなたが





「好きですよ、颯さん」




好きなんだから、それでいい













fin.