海に近いグラウンド


潮の香り

波の音


影すら作らない、厚い雲に覆われた空




「先輩、見てて下さい」


その下で私は懸命に走った

その姿を、先輩は黙って見ていた


「ど、どう!?」

「…落ちたな」


一番得意だった400メートル

三年も走らなければ
落ちたどころでないのは明確で


「気ぃ、使わないでくださいよ」

「…ごめん」


何のごめんだ、と心の中で呟く


「先パーイ」

「…何」


あの日のようなこわばった声ではなかった


ただ、寂しそうに
少しだけ震えていた


「別れてあげても」


無理矢理出した声を遮ったのは
あなたの唇だった


何度も繰り返したキス


そんな甘さはないに等しくて

ただただ私の口を塞ぐためだけのキス


「…馬鹿か、お前は」

「…馬鹿かも」


今まで出なかった涙が
関を切ったように溢れ出た