「律ぅぅ…まだつかないのぉ…?」
「お前が行きたいって言ったんだろ?少しは我慢しろよ………。」
普段の何倍もの早さで流れていく外の景色、
手には東京行きの切符がある。
そう、私達は今電車で東京に向かっているのだ。
「全国高校生軽音楽祭かぁ……きっと皆凄いんだろうなぁ…!」
「全国の軽音楽ガチ勢が集まるからなぁ…。」
わくわくとした表情をみせる千歌と飄々とした顔でいる律を横目に私は大きな欠伸をする。
私達は幼馴染み3人組は3人とも軽音楽部に所属していて更に3人でバンドを組んでいる。
『 spreads』
"広がる"という意味の英単語で、私たちの音楽が何処までも広がっていきますように…という意味が込められている。
ベースの朔夜 律 (さくや りつ)。
うちのバンドきっての天才児、作詞作曲だってお手の物ななんでも完璧な頼れるリーダー。
ドラムの群青 千歌 (ぐんじょう ちか)。
臆病物で何かと自分を下げがちだが、作詞作曲のセンスはピカ一。
うちの曲の大半は彼が創ったものだ。
そして私、ギター&ボーカルの春麻 唄 (はるま うた)。
このバンドきっての凡人。
特に秀でたものが無ければ、2人のように作詞作曲もできない。
一般より少し広い音域と少し変わった声をもつだけで、特に何も無い。
かと言って、自己嫌悪とかそういったものを持つ程私は繊細でも消極的でもない。
それが私なのだから仕方が無いと割り切れる所が私のいい所であると思う。
_______しかし、それが私の甘さであり弱さ。
この世に仕方ない事なんて一つもないのだから。