春の穏やかな日差しが感じられる。
暑くもなく寒くもなく…こんな丁度いい天気の日には居眠りをするのが最適であろう。
入学式後の大切なHR(ホームルーム)であると言うのに私、春麻唄はすっかり眠りこけていた。


「…るま……春麻…!春麻唄…ッッ!!」


先生の怒鳴り声で目を覚ます。
どこかの春麻唄さん(同姓同名)が怒られているのか…いい迷惑だな。
なんて他人事のように思いながら顔を上げると、目の前にはすっかりお怒りモードの先生が仁王立ちをしていた。
どうやら怒鳴り声は他でもない私に向けられたもののようだ………。


「え…と……、」


咄嗟に言い訳を考える。
…が、平均以下の頭を持つ私にそんな上手い言い訳が思いつくはずもなく………。
カチカチと時計が秒針を刻む音だけがこの教室に響いていた。

痛い、周りの視線が痛くて仕方ない。
これが中学の時だったならば皆笑い飛ばしてくれただろう。
…だがここは高校。更に言うと私達は今日入学式で知り合ったばかりだ。
助けてくれる人どころか笑い飛ばしてくれる人もいない。

…本格的にどうしよう……。
このまま黙りこけていても担任の機嫌が劇的ビフォーアフターするわけもないしな……。
流石にこの状況じゃあ、某ビフォーアフター番組もお手上げだろう。


素直に謝るか…反省文何枚だろ………。
大丈夫、反省文は慣れっこだ。
中学の時何回…いや、何10回と書かされてきた。

グッと拳を握り正直に話そうと口を開くと、遮るように第三者の声が聞こえてきた。



「先生、そろそろお話の続きをお願いしても構いませんか?」


透き通る綺麗な女性の声が静かな教室に響き渡る。
その声はまさに女神。
諦めモードになってきていた所に颯爽と現れた救世主。




「…そうだな…すまない皆。」




担任はそう言うと、中断していたであろう話を進めていく。
口パクでもいい、せめて彼女にお礼がしたいと声の主を探す。

(…廊下側の後ろの方から聞こえてきた気が……。)

あまりキョロキョロと視線を泳がせるとまた担任に怒られそうだからバレないよう、細心の注意を払って探す。

(あ、…多分あの子だ。)

廊下側の一番後…そこにそれらしき人物が見られた。



「……綺麗……………。」



その女神様の綺麗さに思わず感嘆の声が零れる。
雪のように真っ白で透明感のある肌。
艶があり、サラサラで櫛通りの良さそうな髪。(後でシャンプーの種類を聞こう)
「ここがあるべき場所ですよ」と言わんばかりに完璧に配置された目鼻と口。
まさに人間国宝、美の象徴。
きっとさぞかしおモテになるのだろう。
私は頬杖をつきながら彼女を見つめる。

すると彼女は私の視線に気づいたのか、こちらを向くとにっこり笑って見せた。
(あ、可愛い。)
どうやら彼女は笑うと少し幼げになるようでとても愛くるしい笑顔を見せる。
「あ、り、が、と、う。」そう口パクで返すと、愛くるしい女神様は首を縦に振った。

あぁ……私が男だったらなぁ………。
そんな馬鹿みたいなことを考えしまう。
それ程にまで彼女は美しかったのだ。






この時私は知らなかったんだ。
そんな女神のような彼女と意外な形で関わることになる事も…
仮面の裏に隠された本当の"彼女"も……………。







『この空間を支配しよう!叫べ_____ッッ!!』