それから、髪を染めた。

茶髪にして、一緒にいたって絶対に兄妹とは思われない格好にした。


一見、ただの男と女。

大丈夫、ナンパから見たらちゃんと虫除け。

似合わなくて、兄妹だなんて噂がたたないようにした。


俺と莉菜のいる世界を完全に区別した。

家族だという絶対的な絆を外したくて。


……でも、その鎖はやっぱり今も外れない。



「おにーちゃんっ!
もうっ、なんで染めちゃったの!
お兄ちゃんの柔らかい髪、好きだったのに……ほら」


ふわっと小さくて細い手が俺の耳をかすめる。

ソファに座ってた俺の後ろから甘い香りが一瞬近づいた。


香水なんて、この女が付けているはずがない。

誘惑なんてするわけがない。


……なのに、


「触んなよ」




―――熱が、くすぶる。