「ただいまー」


その日、莉菜が帰ってきたのは夕方7時頃だった。

両親は二人ともちょうどハワイに行っていて、食事は莉菜が当番だった。


「お兄ちゃん、ゴメンねー。
遅くなっちゃってさー。
あー、走ってきて外も暑くて顔熱っ」


パタパタと顔を手で仰ぎながら、制服の上から赤いチェックのエプロンを羽織る莉菜。

長い髪を一つでくくるとうなじに少しだけ汗が浮かんでいるのが見えた。


……その赤さは夏のせい?

それともカレシ?


知った瞬間、全てが疑わしくなる。


俺が何年も抑えていた衝動も、その会ったこともない相良という男は容易にできてしまうんだ。

俺が死ぬほど触れたい白い肌も、噛みつきたい唇も、焦れったいあのワイシャツ一枚も、吸い込まれそうな瞳も、甘い声も。

特定の誰かにしか見せることのない欲情した、顔も。


全部、全部その男のモノなんだ。




「……莉菜」

「うん?」

「オマエ、彼氏できたの?」

「へっ……!?
あ、う、うん。
聞いたんだね!」


エヘヘと莉菜がはにかむ。

そして伺うように、


「……どっ、どうかな…!?」


と聞いてきた。