秘書の運転する車に乗り込んだ倫子は、丁寧に道を案内し、ヒロの病室へと辿り着いた。

「ヒロ、今大丈夫かな?」
「君は……倫子……さん。大丈夫です」

ーー敬語になっちゃった……
「社長さんが、お見舞いに来てくれたよ。覚えてる?」

「急に来て悪いね。話は聞いたよ……記憶喪失だってね」
「はぁ……申し訳ありません……社長。何も覚えてないんです」
「いいんだ。君に一つお礼が言いたくてね。…………ありがとう。今は何も考えなくていい。ゆっくり体を休めてくれ」
「ありがとうございます……」

社長は帰り際分厚い封筒を置いていった。
「あの……これは……」
「私からの気持ちだ。受け取って。記憶が戻ったらまた顔を見せてくれ」
「はい」

「じゃあ私は失礼するよ。お嬢さん、道案内ありがとう。ヒロ、あんまりその子泣かすんじゃないよ」
秘書と社長が帰った後、病室に残されたヒロと倫子。

「倫子……さん?」
「倫子って呼んで。敬語は……ヤだよ。ヒロが遠くに行っちゃう気がして……」

「分かった。倫子……社長、何置いていった?」
「お金だね。200万入ってる。さっきマコトくんの病室にも同じもの置いていったよ」
「そうか…………マコト……覚えてないけど何か懐かしい響きだな」