これは僕の不思議な夏休みの話…

僕ら家族は毎年山の近くの祖母の家に行っている今年は例年より早くついた。
お盆なので墓参りに行った。
いつものように母と父と僕で掃除をする。ふと目に入ったのは僕と同じくらいの女の子だった。誰かのお墓の前でぼーっと立っている。別に知り合いでも何でもなかったので特に気にはしなかった。

絵が描くのが好きな僕だが家ではなかなか描けないので祖母の家の近くの自然を描こうと思ってスケッチブックを持って行ってきていた。山には何度も行ったので迷うことなく1人でいつものように入っていった。
今日はどこで描こうかなぁ などと1人で言っていたら

「何を描くの?」

と声をかけられた。ふと周りを見渡すと一昨日の墓参りにいた女の子だった。

「ここの山の自然の絵を描いているんだ」

「みせて!」

前に描いたやつがあったのでそれを見せてあげた。

「とっても綺麗、上手ね!」

「ありがとう」

とっても嬉しかった。家で絵を描いていると母や父に『高校生になってまでまだ絵を描いているのか』『勉強しなくていいの?』なんて言われる。だから家ではあまり描けない。当然褒められたこともあまりない。

「君は何をしているの?」

「んー?私?私はね…散歩!こーんな綺麗な所散歩するしか無いでしょ!!」

と彼女は笑顔で答えてくれた。

「そうだね」

彼女といるとなぜだか元気を貰えてとても明るい気分になる。

「ね!そう言えばお互い自己紹介まだだよね?私、笹原美鈴って言うのあなたは?」

「僕は中山亮太、高校1年です。」

「同い年だね!私のことは美鈴って呼んでいいから」

「僕も亮太でいいよ」

「美鈴はここに住んでるの?」

「うん!そうだよ、お母さんとねおばあちゃんと!
今お父さんは出張で遠くにいるの!亮太は?」

「僕はおばあちゃんの家がここにあるから毎年ここに来てるんだ。」

「そうだったんだ!ねぇ!亮太は部活とか入ってる?」

「入ってるよ、これでも一応美術部でさ」

「だから絵が上手なのね!」

「そんなことないよ、でもありがとう。美鈴は運動部とかかな?」

「私はねバトミントンやってたんだ!」

こんな風に美鈴とのお喋りが楽しくて時間が経つのも忘れてしまっていた。

「また明日ここに来れる?」

と美鈴が聞いてきた。

「もちろん行くよ」

「ありがとう!嬉しい」

僕も美鈴の笑顔を見ると嬉しかった
彼女はとっても不思議だ、今日会ったばかりのはずなのに1分1秒が嬉しくて楽しくて仕方ない。そして懐かしい感じかするのは何故だろう…

それから僕は祖母の家にいる間ずっと山にかよった。そうして絵を描きながら美鈴とたわいもない話をする。それが最高に楽しかった。でも楽しい時間はあっという間に過ぎていくというのはこの事だろう、そろそろ帰る日が近づいていた、あと3日だった

「ただいま」

いつもの通り美鈴と楽しく喋ってきてから家に帰ってきた。そうしたら祖母が

「りょうちゃん」

と声をかけた。なので居間に行った。

「もう1日泊まっていかない?」

祖母が言った。
あと二日泊まって三日目の朝に帰るという予定だったのだが、二日目の19日にお祭りがあるらしい夜中までの大賑わいらしく次の日の朝はきついんじゃないかと言う話らしかった。
母も父も祭りを楽しみにしていた。
祭りよりも美鈴ともう1日話せることが嬉しかった。

そのことを美鈴に話すと嬉しそうにしてくれた。

「じゃあお祭り一緒に見よう!花火がね!とっても綺麗なの」

「もちろん美鈴と見てみたいよ」

「お祭りも案内する!私いろんなところ知ってるもん」

「楽しみにしてるね」

「うん!」

「じゃあまたね!」

2日なんてあっという間に過ぎていった
祭りの日は昼頃に約束していた。
それよりも早く僕は絵を描きに森へ行っていた
美鈴もやっぱり早めに来た。

「私ね叶えたかった夢があるの」

「そうなの?どんな夢?」

「今はまだ内緒ー!あ、そーだ明日帰るんでしょ?その前にうち寄ってよ!地図書いてきたから」

地図じゃなくて案内してくれればいいのになぁと思いつつも貰っておいた

それから祭りを思う存分楽しんだ。
祭りのおすすめのところを行ったり、地元の話を聞いたりしてすごく楽しかった。
そして花火を見るいい場所があると言うのでそこへ行った。

「美鈴、花火始まったね」

ふと見ると美鈴は泣いていた。

「どうしたの?」

「なんでもない…ただ嬉しくて…」

美鈴は嬉しいと言いながら笑顔で泣いていた。

いつものように別れるのではなく、今日だけは美鈴に引き止められた。

「絶対明日家行ってよ!?」

“来てよ“じゃなくて“行ってよ”だったことにこの時僕はまだ気づいていなかった。

「大丈夫、必ず行くよ」

そう言って僕らは別れた。

次の日美鈴に言われた通りに地図を見て家に向かった。
そうすると美鈴の母らしき女性が墓参りの準備をしていた。

「あの、草原さんですか?」

「もしかして、中山亮太くん…?」

「なんで、僕の名前を…?」

「ちょ、ちょっと待っててね!」

女性は急いで家に戻ってこっちに帰ってきた。でも何で僕の名前を?

「これ、開いて」

そう言って渡されたのは1冊のスケッチブックだった。
僕が持っているのに似ているスケッチブックだった。
中を開くと絵ではなく字が書いてあった。

『わたしのゆめはりょーたくんとおまつりにいってはなびをみることです。美鈴』

と書いてあった。

「これ昔美鈴が書いたの」

なぜ今これなんだろう?本当に分からなかった。

「美鈴とあなたはね小学2年生の時知り合ったのよ」

それから美鈴の母は話してくれた
僕らが知り合ったころ年が同じでとても仲良かったこと。美鈴の持病が悪化して僕と遊ぶ時間がだんだん減ったこと、そのまま中学に上がりお互い部活もあって接点が無くなったこと。
そして…美鈴が去年亡くなっていたことも

頭が混乱してうまく回らなかった。

あの昨日まで笑っていた美鈴が実は死んでいる?墓もあってしかも今日が命日?花火を見てあれだけ嬉しそうに泣いていた美鈴ももういない?

叶えたかった夢ってこれか。
やっと分かった、理解した

願いが叶ってしまったからあれだけ念を押して僕を家に行かせたのか。この事実を知ってもらうために。
だからだ。色々おかしかった、叶えたかったなんて生きている人は言わない
家に来てねじゃなくて行ってねだった
まるでもう自分がいないかのように。
懐かしかったのは昔会っていたからなんだ。


僕は美鈴のスケッチブックに花火の絵を付け足して美鈴の部屋に置いてもらうことにした。
それから墓参りもしてきた。

また森に行ったらいるんじゃないかとも思ったけどもう一度行ってしまったら泣きそうだ。
せっかく涙をこらえたのに。

ありがとう美鈴
さようなら美鈴

僕と彼女の不思議な夏休みの1週間だった。