「お忙しい中、本当にありがとうござい」 旅館で働いている中ではかなりの古株のおばあさんである井辻さんが黒い袴を着ている男に話しかけたことを始め、そこに集中する視線。 「惜しい人を亡くしたな」 40代くらいのおじさんはそう一言告げた。 黒い袴を綺麗に着こなすおじさんは私は見たことがなかった。 中3までは旅館で育ったのに、このおじさんを見たことがないということは私が一人暮らしを始めてからこの旅館と関係を持った人だろう。