「秋穂(あきほ)!!!」

 僕は叫んだ。喉が枯れるくらいに、張り裂けるくらいに。それでも、遅かったのだ。秋穂は、ボサボサのロングヘアーとズタズタに引き裂かれたセーラー服を風に揺らしながら空を見ていた。
 目から大粒の涙。その姿は、言葉にできないくらい残酷で、切なくて、悲しみに溢れていた。
「秋穂、危ないぞ。死ぬぞ!!!」
 秋穂は動かない。僕の方を振り返ろうともしない。空を、じっと見つめているだけ。言葉を発せず、じっと、ただじっと空を見ている。
 いま思えば、あのとき何かのアクションを起こしていれば、秋穂はいまでも生きていたのかもしれない。少なくとも、学校の屋上から飛び降りるなんてことはなかった。あのときの彼女を救えたのは、僕だけだったのに。彼女は僕に救って欲しかったのかもしれないのに。傷だらけになった彼女の腕を握っていたらなんて、ことが終わった頃に思う。馬鹿みたいだ。いま目の前で起きていることを頭のなかで整理するのに必死で、救うことができなかったのかもしれない。...いや、できなかったのではない。

 しなかった。

 僕は、救おうとしなかった。僕が、秋穂を殺したんだ。
 彼女は突然、ゆっくりと僕のほうを振り返った。髪が、緩やかに後ろになびく。
「敬司(けいじ)」
 彼女は、僕の名前を言うとゆっくりと目を閉じて、
「秋穂?―――――秋穂!!!」
 背中から、ゆっくりと、三階建ての学校の屋上から落ちた。寂しくなびく髪、制服。
 僕は急いで屋上から顔を出して、秋穂を見る。

 秋穂は、最後まで寂しげな笑顔だった。