何者かに魅入られたように少年は深い森を彷徨っていた。

「待って。そっちじゃないの」

不意に声をかけられた少年の瞳に怯えの色が灯る。
声の主は柔らかく微笑んだ。

「大丈夫。一緒に戻りましょう」

差しだされた手を取り少年は再び歩きだす。

歩をすすめる度にあたりが明るくなってゆくのを少年は感じとった。

やがて目の前に見慣れた景色が……。
少年の瞳に精気が戻る。

自分を森の入り口まで連れてきてくれた声の主にお礼をいおうと隣りに目を向けた瞬間少年の体は凍りついた。

「お、お化けえぇぇ」
少年は絶叫し全速力で森を駆け抜けていった。


あとに残された声の主は 少々呆れたようにため息をつく。
「お化けって。ひどいなー」

透けた自分の体に目をやり、仕方ないかと自然 苦笑がもれる。

それでも、良かったと彼女は優しく微笑んだ。

ーーここはヒトを惑わす幻想の森。
そして彼女は守り人。
彼女が守っているのは、人かそれともこの幻想の森か。答えを問うても彼女は、笑って言うだろう

「私はただ守るだけ」