一体誰が弾いているのだろう。


 この音色の主を私は知らない。
 この扉の向こうにいるはずなのに、ノックする勇気さえない。


 今日こそは、と意気込んでいても、結局拳は力なく垂れ下がる。


(今日も無理か……)


 半ば諦めモードで耳を澄ませていると、突然音が止まった。

 いつもならもっと弾いているはずなのに。

 扉の向こうから足音が近づく。
 私の足は根を張ったように動かない。