二時間目、生徒が現れた。二時間目の授業が始まって数分した頃。そっと教室の後ろの扉を開け、音を出さずに入室。勿論のことだが、髪色・眼鏡の色により一瞬で赤縁眼鏡の女性教師も「あ、雷蒼君か。」と小さく声を漏らした。
「雷蒼君、遅刻した理由を言ってもらおうか?」
チョークを置き、右手で軽く眼鏡をクイッと持ち上げる仕草をする。いつでも笑顔ということで生徒からも先生からも高評価の女性教師。長い髪を少し高い位置で結っていて、赤い眼鏡とその整った顔で笑顔が良く似合う。
「えっと、その、いろいろありまして⋯⋯ですね?」
視線を左右に逸らしながら、思考を巡らせているのだろうか。そうとしか見えない。
「まあいいわ。後で職員質ね。」
と一言述べて、授業は再開された。

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雷蒼凪津(らいそう なつ)
・私立朱峯中学校卒業。
・中学では運動神経は良いものの、誘われても3年間どこの部活にも属さず、いわゆる帰宅部というものを満喫していたという。
・両親の詳細は不明だが、父は大手工場長、母はピアニストだそうだ。
・習い事は水泳だけで、塾には行っていないらしいが、かなり成績が良いらしい。優等生。

私が知っている情報はこれくらい。私の副職は、人に取り憑いた魔物を祓うという内容の『魔物祓い師』だ。この職業は表に出ていないものの、政府の中では有名らしい。一応、この職業内でもランク付けのようなものがあって、そのランクによって与えられる仕事が違う。最下級の10級〜7級は下級の魔物、6級から3級は中級、2級は上級、一級以上(6段まで)は超上級の魔物を祓う、という職業。
私は一応2級の30位で活動させてもらっている。中間あたりだからか、目立た無くて楽だ。
忘れてた。個人個人で違う武器を持つ職業で、人によっては銃だったり刃物だったり、はたまたファンタジー漫画に出てくるような武器、日常にあるものが具現化していたりする。武器は一つ一つ名前が付けられていて、主が消えると1人でに暴れ出すか蒸発して消えるらしい。(実際の現場見たことないけど)
先祖代々受け継がれている家庭が多いらしいが、私は稀にいる血筋の関係ない者らしい。
今更だけれど、なんで私なんだろ。体力なら兄さんの方があるのに⋯。
「狐火ちゃん、お昼休みもうそろそろ終わるし、教室戻ったらどう?」
と、思考を巡らせていた私に話しかけてきたのは、小学生の頃からの知り合いで同じアパートに住んでいる小峰 積希だ。
「うん、そうだね。ありがとう。」
そういえば今屋上でお昼食べてたんだったっけ。そんことも忘れるなんて、疲れてるのかもしれないな。
「ううん、中学生の頃からこんな感じだったもん、もう慣れたよ」
苦笑しながら弁当箱を布で包む彼女は、どちらかと言うと美人だ。なのに剣道とか柔道とかを幼い頃から習っていたらしい。そのせいか、体格もいいし、見た目によらず運動神経もいい。
「そっか、そうだったね。早く戻ろうか。」
「うん!」
本当、なんでこんな子が唯一の友達なんだか、自分でもよくわからない。それでもって成績もいいし人当たりもいいんだから、完璧美少女って言うやつなんだろうな。

ああ、でも少し臆病なんだっけ。

二人でくだらない話をしながら屋上と4階を繋ぐ階段を降りて教室へ戻ると、目を疑う光景が待っていた。
「っえ、私の、机が、無い⋯⋯?」
積希の机が無く、椅子だけが残っていたのだ。周りからはひそひそと話す声、くすすと嘲笑う声が聞こえる。
「あの、皆⋯私の机、知らない⋯?」
少し戸惑いながら教室内にいる生徒の顔を見回す積希。私もそれにつられて周囲を見ていた。怯える目を地へ向ける者、目を背ける者。そしてひとつのグループ、いわゆるいじめっ子という類の生徒。あまり関わりたくないし、話したくもない部類だ。ああ、めんどうだ。
「高橋さん、月雲くん、積希の机知らないですか?私達今教室に来たものだから、なにがなんだか⋯」
少し目を背けながら質問する。
「はあ?知ってるわけねーだろ。自分で探せとでも言っておけば?」
嘲笑しながら話さないでくれ、更に居心地悪くなるだろうが。なんて言えるわけないので口を継ぐんだ。
「そう、ですか⋯」
「行こ?積希。」
教室にいてもつまらないし、積希の手をとると少し戸惑いながらも「あ、うんっ」と小走りで着いてきてくれた。裏庭まで来ると、積希も緊張が溶けたようで。
「狐火ちゃん、さっきはありがと⋯。本当、いつもこんなんでごめんね、迷惑かけてばっかりで⋯」
「ん、気にしないで。私は大丈夫だから。あとこれ、はい。」
途中の自販で買った積希が好きな苺みるくを渡した。あっと口から零して、ありがとうと照れながら受け取ってくれた。
パックの側面に付いているストローで開け口を割って幸せそうな笑顔でそう飲まれては、こっちまで飲みたくなる⋯。
はずもない。なんせ私は甘いものが苦手だ。
本例が鳴ったけれど、あの教室で授業を受けるのもなんなので、5時間目は机探しに使うことになった。