ガチャ、と玄関の開く音がする。

…駿くんが帰って来た。

フラれても仕方ない?
そんなの嫌だ。
許してくれるなら、ずっと駿くんと一緒にいたい。

「おかえり」

「ただいま。
はい、これ。
喉乾いたでしょ?」

そう言ってお茶をくれる。

「ありがとう。


…、ごめんなさい」

「え?
何が?」

本当にわからないという目でこっちを見ている。

「何がって…。
私、お父さんが決めた相手と結婚するのが嫌で、自分のために駿くんを利用したんだよ?

お父さんにはああ言ったけど、駿くんはわかってるでしょ?
お父さんの言いなりになんかなりたくなくて、駿くんを…」

「なんで急に結婚って言い出したのか、不思議に思ってはいたんだよね。
好かれてるようには見えなかったから。

けど、それって謝るようなこと?
真綾が困ってるときに俺が現れて、必要な時に俺が傍にいたんでしょ?

それって考えようによっては、運命以外の何物でもないんじゃない?」

運命…?

「駿くんは、こんな私でもまだ結婚したいって思ってくれるの?」

「愚問だな。そんなの当たり前じゃん。

真綾こそいいの?
これくらいのことじゃ、俺は離れてあげないけど」

おいで、と駿くんが手を広げると、その腕のなかに吸い込まれる。
おでこをこつんと胸に寄せると、大きな腕に包まれる。