ただこの男、とんでもないバカ野郎でさ。


口は悪いし、家が同じ方向だから一緒に登下校してるけど、チャリをこぐのはいつも私だし、鈍感過ぎて本当に私のことを微塵も意識してくれないし。


……恋する相手として全く向いてない。


「だって、考えてみなって。転校してきて一番はじめに声をかけてくれた女の子……!まさに運命すら感じるその瞬間、藤井は夏乃に恋に落ちなかったわけだ」

「それが?」

「つまり、夏乃の顔は藤井のタイプじゃないってことになるでしょ。冷静に考えて」


───グサッ


「……まぁ、確かに。タイプならその時既に私たちの恋は動き出していたでしょうね」


「だよね、微塵も興味なかったんだろうね」と続けたうめに、もうどこか分からないけれど、内蔵という内蔵全部をえぐられたような痛みが、まとめて心臓に走った。


「もっと言えばさ〜?」

「まだ言うの、ちょっと休もうようめさん」

「藤井のこと諦められるように協力してあげてるんでしょうが」


……うめは確かに、私のことも藤井のこともよく分かってるし、頼りになって、友達思いで、自慢の親友なんだけどさ。


私はただでも藤井のことでだいぶ傷心しておりまして、目に見えた負傷こそないものの、心には深く深く……深すぎる傷を負っているのだよ、うめさん。