小さく声を掛けると、瞼が少し動く。

「あの、」

静かにゆっくりとその目が開く。

俺の姿を認識したであろう彼女は、瞬きを数回繰り返し、「え?え?」と慌てた様に椅子から飛び降りた。

「あ、三軒先の香川です。ばぁちゃんから言われて、えっと、おはぎを」

そう早口で言うと、すぐに理解したらしい彼女は、ありがとうございますと綺麗な声で言った。

「いえ。むしろ邪魔したみたいで、」
「そんな。少し休もうとしただけなのに、こんな暗くなってしまって。しかも見たことない若い人が立っているんだもん。もう色々驚いちゃって」

と柔らかく笑う彼女は、やっぱりどこか儚気に見える。

それより・・・少しって、一体いつからここにいたんだろうか。