10年振り位だろうか。

母親の実家があるこの田舎町は、ほんの数メートル先に海があり、夜になれば湿った潮の匂いと静かに響く波の音がこの町を包む。

この空気は昔から変わらない。

都心の空気とは全くちがう。

あんな複雑な臭いもなければ人工的騒音もない。

紫煙が潮風に煽られすぐに消えてしまう中、外灯一つ存在しない暗い道を松ヶ原邸へと進んで行く。

松ヶ原邸は俺が小さい時からこの辺りでは有名で、赤レンガの洋風なその佇まいは日本家屋が並ぶこの部落では浮きすぎる存在だった。

それでも俺はそんな異色な屋敷に憧れて、足繁く通っていた。