──「おはよー」
クラスメイトと挨拶を交わしながら席に着く。
…ふと隣の席を見ると、まだ空席のままだ。
ひかるはまだ来ていない。
この1ヶ月ちょっと、ひかると全く会ってなかったけど普通に喋れるだろうか。
会ってなかったけど、ひかるを思い出さない日はなかったなんて、我ながら少し気持ち悪い。
「りーほ、おはよ」
「…ひかる、!」
あたしはひかるに声を掛けられた瞬間嬉しくなる。
こんなのおかしい、ドキドキしすぎて、やばい…。
「りほ、なんか犬っぽい笑」
ひかるが笑いながら言ってくる。
「え、犬!?なんで?」
「おれに向かって、めっちゃ尻尾振ってるって感じ」
なにそれ。
なにそれ、なにそれ…ばか。
それはあんたのことが好きだからじゃん。
ほんと鈍感。
鈍い。ばか。
「ばか」
「は?ばかじゃねーし、意味わかんない」
「…りほを犬なんて言うやつはばかだ、ばーか」
あたしは出来るだけ明るく言った。
そうじゃないと、全部漏れちゃいそうで。
あたしの思ってることを、全部、全部、ひかるに言ってしまいそうで。
だってひかるに言ったら、こんな関係無くなっちゃうんでしょ?
最近よく喋ってくれて、多分今はあたしがひかるの1番仲のいい異性で。
『両想い』だなんて噂されるような、幸せな関係、崩れちゃうんでしょ?
だったら言わない方がいいじゃん。
「ひかるの、ばか。気づいてよ…でも、気づかないで…」
あたしの矛盾しきった小さく呟かれた言葉は、当たりの騒がしい音に掻き消された。
