雛さんと別れてからの事だ。

 みのる台駅前のアールヌーボーで彩られた喫茶『パリジェンヌ』の前であった。

「あははは」
「ほほほほ」

 スーツを着た神谷先生が、水色のスーツを着たボブのキレイな女性と喫茶店に入って行った。

 何やら話している。
 楽しそうだな。
 何て佇まいのいい美しい人なのだろう。

 そう思いながら、私は、神谷先生の二つ後ろの席に隠れていた。
 スパイである。
 
 恋人なのですね。
 キレイな恋人なの……。

「あー。私、振られちゃった……」
 何かを叫びたかった。

「あー。でも、神谷先生と顔も似ていたし、お姉さんでした! とかの落ち、どこかに落ちていないかな?」

 しまった。
 植木越しに、まじまじと見過ぎた。
 恋人らしき乙女に見られちゃった……!

「お客様、ご注文はお決まりですか?」
「……。ちょっとお待ちよ」

 今度は、神谷先生の前に行った。

「何やってんの? お子様は、帰りなさい」
「もう、十二歳です」

「おー。未成年者は、禁止です」
「分かりました……。だから、別れてください!」

 ガタッ。

 神谷先生が席から立った。
「人の話を聞きなさい」

 怖く睨まれたので、私は、すごすごと帰った。
「あんなに、拒絶しなくても……」