「拗ねるなって。又、俺のプリント間違いがあったのか?」

「はい、ここの大宝律令が、七四三年となっていますが、七〇一年ですよ。七四三年は、平城京ですよ。むう」

 礼音はさくさくと片付けた。
 このチェックは単に口実だから。

「おー、よし! よくぞ気付いた。流石ケソ生徒」
「神谷先生、今日は押しますね」

「俺は、読み物を提供している訳ではない。勉強になる物を配っているんだ」
「そうなんですか……。掌で転がされた気分です」

「頭ぽんぽんして欲しいのか?」

 きゃあああああ!
 およしになって。

「何、目なんか瞑っているの? する訳ないだろう」

 あ、そうですよね。

「分かっていますよ。殴られるかと思ったまでです」

 キーンコーン……。

「し、失礼致しました」
 ぺこりと礼をした。

「ああ、新美……」
 神谷の声は低く響く。
「はい?」
 くっと振り向いた。

「あんまりマセタことすんじゃねえぞ」
 耳元で囁かれた。

 カチー。
 コチー。

 固まってしまったじゃない。
 あ、次の国語に間に合わない。
 国語の成(なり)ばあ、超怖いんですけど……。

 ギイイギイ……。

 松組の戸を開けると、静かに雷が落ちた。
「はい、三分遅刻しました。申し訳ごじゃりません」
「何ですか、その言葉使いは」

 バン。

 成田八千代(なりたやちよ)先生、机を叩く。
「申し訳ごじゃりません」
 カチコチに頭を下げた。
「立っていなさい!」
 教室中に大きめの雷が落ちた。

 ごめんなさい、本当に緊張しているのです。