「あ、あの・・・櫻井さん、でしたよね。先程はありがとうございました。」

深々と頭を下げる葉山さんに、私は手を振って気にしないようにと告げた。ずり落ちた眼鏡をかけ直した彼は、名刺入れから何かを出すと私に渡してきた。

「さっき聞いてしまったんですけど・・・・・もし良かったら、私の働いてる会社で新卒の募集をしてるので・・・・・一考してくれませんか?

何かお礼を、と考えたのですけど、今一番困っていそうな職の斡旋しか私には出来そうになくて。」

もらった名刺には『珈琲・輸入雑貨専門店 オリオン』と書いてある。よく駅ビルに入ってるような小さいお店のアレだろうか、1度行ったことがあったような・・・。

「君さえ良ければ、ここで働かない?」
「・・・正規雇用でブラックでさえなければ!」

背に腹は変えられない、急遽目の前にぶら下がった蜘蛛の糸ならぬ救いの手に私はがしっとしがみついた。葉山さんは思い出したように名刺の裏に電話番号と、自分のフルネームを書くと再度渡し直した。

「はい、ここの住所の場所に来て、受付事務の人にこれを渡してくれればいいからね。

あ、履歴書もお願いします。」
「・・・・・あなたが神でしたか。」

仕事内容も、務める先のことも全く調べず、今思えば社畜として使い潰されてもおかしくなかった。しかし翌日、記された住所に来てから、別の意味でえらい所に来てしまったことに気づいたのだった。