道場の端に正座をして、すう、と息を吸う。するとうっすらと重たい熱気が僕の体内を駆け巡る。


目の前には、メンとコテ。ドウとタレはさっきつけ終わったけれど、順序はしっかりと体に染み付いているはずなのに手が震えてつけ終えるのに結構な時間がかかってしまった。



「えっ!あずさ、メンつけてくれるの⁉︎メンはつけないって言ってたのに……」



面手拭(めんてぬぐい)を手に取ったところで、防具を身に纏った真夏が驚いたように言う。


僕だってメンだけは絶対につけるもんかと、いや、つけられないと思っていた。だからいちばん驚いてきるなは僕自身だ。まさか自らつけようとするなんて。


だけど仕方ないじゃないか。……どうしても、他人事とは思えなくなってしまったんだから。

これはきっと、真夏のためのようで、真夏のためではない。涙を流す真夏の影に重なったあの日の自分自身のための不純な気持ちだ。


そんなことも知らず、真夏は重たい防具を身につけているのが嘘みたいにピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねている。僕はなんだか後ろめたい気持ちになってそっと視線を下ろした。

またひとつ息を吸って、面手拭をつける。ぎゆっとこめかみの辺りが締まったのを確認して、次は大きく息を吐いた。

メンに触れる。



「……っ」



こんなにも蒸し暑いのに、体が凍てついて動かなくなった。どくんどくん、と心臓だけが激しく動いている。

無理だ。やっぱり僕は、僕には……。



「あずさ、しんどかったら無理しないで」