そんなのはとうの昔に死んだし、もう永遠に蘇ることはない。今では本物だったかも疑わしい、過去の栄光だ。



「ごめん、本当に無理」



はっきり言うと、真夏は「そっかあ」と力なく笑った。



「ごめんね、しつこくして」

「いや別に……」

「でも気が変わったらいつでも剣道場に来てね、道着も袴も全部貸せるから」



しつこくてごめんと言ったわりにまだ言うのか。眉根を寄せて見ると、もうそこにさっきまでの下手くそな笑顔はなかった。……切り替えの早いやつ。

「絶対にない」と素っ気なく答えると、真夏が食いついた。



「そう?わからないよ、もしかしたら何か大事件があって剣道しようと思うかも」

「どんな事件だよ」

「わからないけどあるかもしれないじゃん!こう、漫画みたいな何かが……」

「そうだね、あったらいいね」



鼻で笑ってやると、むっとした真夏が勢いよく立ち上がった。そして少年漫画の探偵のようにビシィッと僕を指差す。



「ぜえーったいに!あずさに剣道させてみせるから!」



はいはい、もう勝手にしてくれ。

どうでもいいという風にぼうっとそれを見上げていると、次は忠さんが「いい加減にしろこのアホ娘‼︎」と立ち上がる。その声があまりにも大きくて、真夏だけでなく僕までもが肩をびくりと跳ね上げる。



「急に怒鳴らないでよお父さん!」

「しつこいんだお前は!それと人に指を向けるな馬鹿たれ‼︎」

「ぎゃー!指折れる!触んないでー!」



頭上で繰り広げられるしょうもない闘いを見ながら、なんとも言いがたい絶望感に苛(さいな)まれる。ああ、早く終わってくれないかな、夏休み。