繋がる〜月の石の奇跡〜

大谷がいなくなった後も、えみはベンチに一人座っていた。

『井上くん探さなくちゃ。』

えみがキョロキョロと辺りを見渡して、井上がいそうなところを考える。


「真田さん!」

えみがベンチから立ち上がると、上の方からえみの名前を呼ぶ声がした。

上を振り返る、屋上から井上が笑顔で手を振っている。



『井上くん。』

えみは井上のことをじっと見つめて、自分が井上に抱く気持ちを確かめる。


『好き。』

そう確信した瞬間、勝手に体が動きだし井上がいる屋上へと走り出す。




「井上くん。」




「井上くん。」



「井上くん。」



「井上くん。」


屋上への階段を上りながら、えみは井上の名前を呼び続ける。


えみが屋上の入り口を開けようとした瞬間、扉が開いて中から井上が出てくる。

走って勢いがついていたえみは、そのまま井上にもたれ込んでしまう。

井上はえみの体をしっかりと支え、驚いた表情でえみを見る。

「大丈夫?」

えみは息を切らしながら、井上の腰にぎゅっと腕を回す。

そして、井上の顔を見上げて話し始めた。

「井上くん、」

「私、」

思い切り走ってきたえみは、息が切れて上手く話せない。


「私、今日のお祭り、井上くんと一緒に行きたい。」


えみはまるで、子供みたいに率直に素直な気持ちを言う。

井上は、えみの無邪気な表情に思わず笑顔になった。

そしてえみの体をぎゅっと包み込み、大切そうに抱きしめた。

「うん。ありがとう。一緒に行こう。」