20分後、えみの家のチャイムが鳴った。

えみは、カバンを手に取りドアを開ける。

そこには笑顔の大谷が立っていた。

「お待たせ!」

もう夜も遅いのに大谷は、いつもと変わらず元気な様子だった。

「遅くなっちゃってごめんね。それじゃ行こっか。」

大谷は自然にえみをエスコートする。

「もうこんな時間だからお店限られて来ちゃうけど、どこかリクエストある?」

「どこでもいいです。」

「じゃぁ、この近くのラーメン屋でいい?」

大谷とえみが住むアパートの近くには、夜中までやっているラーメン屋がある。

「はい。」

歩いて5分もしない場所にあるので、二人は歩いて行くことにした。

ラーメン屋に到着し、二人は席に着く。

サラリーマンらしい男性が数人ラーメンを啜っていたが、店内は空いていた。

「大谷くん、いらっしゃい。」

ラーメン屋の店長が大谷に話し掛けながら水を持ってくる。

「店長どうも。」

大谷は愛想よく返事をする。

大谷はこのラーメン屋の常連で、店長とも顔なじみだった。

「女の子と一緒なんて珍しいね。彼女かい?」

上機嫌に店長は話しを続ける。

「彼女だったらいいんですけどね〜。」
大谷は軽く躱す。

店長と大谷が話している間、えみは気まずそうにメニューを眺める。

「食べたいものあった?ここはどれもイケるよ。」

大谷がえみに尋ねる。

「ラーメンも食べてみたいですが、今日は麻婆丼にします。」

メニューを閉じながらえみは答えた。

「オッケー。店長!チャーシュー麺一つと麻婆丼一つね。」

大きな声で大谷が注文した。

「あいよ。」

店長も元気よく返事する。

待ってる間、大谷が今日の出来事などをえみに話す。

10分もしないうちにラーメンと麻婆丼がテーブルへと運ばれてきた。

「冷めないうちに食べな。」

店長は二人にそう言うと、厨房へと戻って行った。

「いただきます。」

そう言って二人はそれぞれ食べ始める。

「美味しい。」

その麻婆丼は、ひき肉と豆腐が丁度良い分量で作られた優しい味だった。

「よかった。」

大谷が笑顔で言った。

「ラーメンも一口食べる?」

大谷が聞いてきた。

えみが少し戸惑っていると、

「はい。」

大谷がお箸でラーメンをすくい、レンゲに麺をのせてえみの口元へと運ぶ。

えみは、流れに任せてそのまま口を開けてラーメンを食べる。

「どう?」

大谷が聞く。

「美味しいです。」

頬を少し赤らめてえみが言った。

「僕も麻婆丼食べたいな〜。」

口を開けながら、大谷がオチャラケテ言う。

恥ずかしかったえみは、どんぶりを大谷の前と差し出した。

「まぁ、いっか。」

大谷は、少し不満げに差し出された麻婆丼を自分で食べる。

「うま!」

大谷はびっくりしたように言った。

その姿にえみは自然と笑顔になる。

「それにさ、」

大谷がいきなり真面目な顔をして言う。

「間接チュー。」

今度はニコっと笑って言った。

「もう。ふざけないで下さい。」

えみはそう言いながら、麻婆丼を自分の方へずらした。

「冗談冗談。」

えみは、気を使わないで大谷と話している自分に気づいた。