繋がる〜月の石の奇跡〜

えみは、いたたまれない気持ちのまま校内をうろうろしていた。

『何この気持ち。』

えみの胸のドキドキは止まらない。

えみは、自分の気持ちが分からなくなっていた。

井上のことを気になり始めているのか、それとも井上を光輝の代わりにしようとしているだけなのか。

『井上くんは、光輝じゃないんだから。』
手首で揺れるブレスレットを触りながら、えみは自分に言い聞かせた。

しばらく校内を歩き回り、えみは家へと帰ることにした。

辺りは暗くなり、以前男に絡まれたことを思い出す。

正門を出て、えみは立ち止まる。

『どうしよう。なんか怖い。』

そして、カバンから大谷がくれたメールアドレスと電話番号の書かれた紙切れを取り出す。

『連絡してみようかな。』

携帯電話に大谷の電話番号を入れて、発信ボタンを押す。

発信音が3回鳴っても大谷は電話に出ない。

5回目が鳴り終わり、留守番電話になろうとしたとき、

「送ってくよ。」
えみの後ろから息を切らした声がした。

えみが後ろを振り向くと、そこには井上の姿があった。


相当急いで走って来たのか、井上の前髪は汗で濡れて息は切れていた。

えみは、大谷へ掛けていた電話を切り、井上の方を見る。

「大倉さんは?」

予想外の出来事にポカンとしてえみが言う。

「ちゃんと送って来たよ。」

井上が直ぐさま答える。

「そう。」

えみは、未だにポカンとしている。

「行こう。」

井上が先を歩き始める。

「うん。ありがとう。」

えみも続いて歩く。

なんとなく気まずい空気の中、えみが話しを振る。

「テスト勉強進んでる?」

えみは当たり障りのない質問をする。

「まぁ、ぼちぼち。そっちは?」

井上が質問を返す。

「うん。私もぼちぼち。早く夏休みになって欲しいよね。」

井上はうんうんと頷いている。

「夏休みは何か予定あるの?」

特に深い意味もなく、えみは井上に質問を続ける。

「バスケサークルの合宿くらいかな。」

息切れしていた井上の声は、だんだんと整ってきた。

「合宿なんてやってるんだー。結構大変なんだね。」

「合宿っていってもほぼ遊びだよ。川で遊んで花火やったり、祭り行ったり。」

「へー。楽しそうだね。」

「来れば?」

井上の意外な言葉にえみは驚く。

「え。」

「バスケ好きなんだろ?」

驚くえみに井上が続けて話し掛ける。

「うん。でもどうして?」

「前に見学来てたじゃん。」

井上がそのことを知っていることにさらに驚いた。

「あ、うん。でもバスケサークルには入らないと思うから。」

「何で?結構楽しいよ。来ればいいのに。」

井上は意外なほどにサークルの話を止めない。

「少し考えてみるね。」

えみは、その気なしに答える。

その後もえみと井上はたわいもない話を続けた。

そうしているうちにあっという間にえみの家に着いた。

えみは、お礼を言って部屋の入り口へと向かう。



「大倉は彼女じゃないから。それじゃ。」

えみが部屋の鍵を開けようとしたとき、井上の声が聞こえてきた。

えみは、井上の方を振り返るが、井上は自分の家の方への歩き始め、えみの方は向いていなかった。