すぐに勉強をする気持ちにもなれず、図書館の近くの水道へ汚れたハンカチを洗いに行くことにする。

落ち込んだ気持ちのまま、ごしごしとハンカチを洗っていると、えみの目の前がいきなり真っ暗になって見えなくなった。

すると、
「えーみちゃん」
男の人の声がした。

びっくりして後ろを振り返ると、そこには昨日と同じのように笑顔の大谷の姿があった。

「びっくりした？何してるの？」

「コーヒーをこぼしてしまって。」
と俯いて返事をした。

大谷は、えみの顔を覗き込んで
「なんか元気ないね？大丈夫？」

「はい。平気です。」

濡れたハンカチを急いで絞ってその場から立ち去ろうとすると、目の前にコーヒーを二つ持った井上が立っていた。

えみの方をじっと見つめる井上は、何か言いたげな様子だった。

えみは、話しかけることもなく、その場に立ち止まった。

すると、遠くの方から可愛らしい声が聞こえてきた。
「圭くん！」

それは、前にカフェテリアで見たことのある大倉ゆりこだった。

「よう。」
井上は、変わらずそっけない感じで挨拶をしていた。

「え？もしかして、そのコーヒー私に？ありがとう。嬉しい！」
ゆりこは嬉しそうに井上の手からコーヒーを奪う。

コーヒーを一口飲むと、ゆりこは
「あれ？これミルク入ってるよ？私コーヒーは砂糖だけ入れる派なの忘れたのー？」
ちょっと拗ねたような口調で言った。

その瞬間、なぜか分からないが、そのコーヒーが自分のためだったのではないか。。という気持ちになったえみだった。