「どういうこと.…?」

えみは動揺を隠せずに、目を泳がせる。


「光輝は…俺の幼馴染で親友なんだ。」
井上は息を飲み込んで、えみの反応を恐る恐る見た。

「えっと…あの…私が光輝と付き合ってたこともずっと知ってたの?知ってて何も言わずにいたの?」
えみの口調はどんどん強くなっていく。

「違う。真田さんが光輝の彼女だったことは、夏祭りでペンダントを拾ったときに知ったんだ。」

えみの体は震えている。

「光輝から、真田さんのことをよく話で聞いてたんだ。でも、まさか一緒の大学とか、そんなことは聞いてなかったから、そんなことあるのかって、俺も驚いてる。」

井上は落ち着いた口調で、ゆっくりと話しを進めた。

「それで、どうして井上くんが光輝のペンダントを持ってるの?もう私なんか好きじゃなくなったからって、光輝からもらいでもした?」

「違うよっ。」

えみの言葉を全てかき消すように、井上は声を上げた。

「違う。光輝は、真田さんを大切に思ってた。真田さんの話をする光輝は、今まで見たことない表情で、好きで好きでたまらないんだなって、思いが伝わってきてたよ。」

井上は一瞬取り乱した態度を持ち直して、冷静に話す。

「そんなの矛盾してるよ。光輝は私を振ったんだよ。どんなに好きだって人の気持ちなんて簡単に変わる。今もどこで何してるか分からない人をもう忘れて前に進みたいの。なのにどうしてそんな話をするの?」


取り乱しているえみの両肩をギュッと抑え、井上が話し始めた。

「光輝は真田さんの幸せを願ってる。でももう自分の手で幸せにすることができないんだ。」




「えっ…?」

二人の空気が、時間が、音が、光が全て止まってモノトーンに変わった。




「光輝は…もうこの世にはいない。」