「そろそろ戻ろうか。」

大谷は、このままでいたいという気持ちを抑えて、ぐっと言葉を出した。


「はい。」

えみは、子犬のリードを持って歩き始めた。


『気持ちは伝えた。後は井上がどうでるか。そして、えみちゃんがどんな答えを出すか‥‥。後悔はない。』

大谷は、そんなことを胸に秘めながら、えみの後に続いて歩き始めた。


えみと大谷のアパートに着くと、えみの部屋の前に井上が立って待っていた。

「井上。」

大谷は、そっとえみの方を見る。

『井上くん。』

えみは、歩く足を止めて、その場に立ち尽くす。


「真田さん。話したいことがあるんだ。」

井上は、いつになく真剣に真っ直ぐえみを見て言った。

「全部‥全部話すから、聞いて欲しい‥。」

井上の声は震えている。


「えみちゃん、この子、僕が送り届けて来るから。」

大谷は、子犬のリードをえみの手から取り、飼い主の家の方へと歩き始めた。


意味の有り気な井上の言葉に、えみは息を飲む。


「うん‥。」

えみは、一言だけ言葉を放ち、井上を部屋の中へと入れた。